% ArabicaとKurasuは、どちらも京都を重要な起点にしている。ただし、海外で広げているものはかなり違う。% Arabicaは、コーヒー、デザイン、世界を見ることをひとつのブランド言語にまとめ、29の国・地域に239店を並べる。Kurasuは、京都のロースタリーやStandを芯にしながら、Singapore、Bangkok、Jakartaで現地チームと都市ごとの店の表情を作っている。
ここで比べたいのは、どちらが成功しているかではない。公開情報から読めるのは、海外店を増やす前に決めている「渡すもの」の違いだ。
% Arabicaは、世界を見るための装置として店を置く
% Arabicaの公式Philosophyは、創業者の「coffee, design, and seeing the world」への関心から始まる。そこには、コーヒーだけでなく、多文化、建築、旅、シンプルな生活への関心が連なっている。
同じページで、創業者は「最高のコーヒー」を作るためにHawaiiのコーヒーファームを購入し、世界中のグリーンビーンズを扱い、日本製焙煎機の輸出、エスプレッソマシンのディストリビューションにも関わった、と経緯を置く。その後、2014年9月に京都でフラッグシップを開いた。ここでの京都は、地元性だけを示す場所ではない。ファーム、グリーンビーンズ、焙煎機、エスプレッソマシン、デザイン、旅の感覚を束ねる最初の見える拠点になっている。
Locationsを見ると、その思想はかなり大きな地図になっている。掲載店舗は29の国・地域に239店。日本は7店で、中国本土79店、United Arab Emirates 26店、Hong Kong 16店、Thailand 15店、Indonesia 11店が続く。Asia Pacific、Middle East / Africa、Europe、Americasにまたがる店舗網で、日本国内よりも海外の密度が圧倒的に高い。
この数字から言えるのは、知名度や収益性ではない。% Arabicaが、京都発の一店舗を海外に複製したというより、世界中の都市で同じ記号を見つけられる状態を作っていることだ。店は、その土地ごとの独立した物語よりも、ブランドの視界を共有するための入口になる。
Kurasuは、京都を固定点にしながら街へ余白を渡す
Kurasuの海外展開は、同じ「京都発」でも重心が違う。
About Usでは、2017年にSingapore、2019年にBangkokへ出店した流れが示される。両拠点はローカルマネージャーが率い、Japanese coffee and home-brew cultureを共有しながら、それぞれの店が現地客に合わせたサービスを育ててきた、と位置づけられる。
Our Global Storesでも、店舗ごとの書き分けが細かい。Singapore Waterlooは、京都に根ざしながらlocalizationを受け入れる方法を学んだ場所。Bangkok Thonglorは、古い写真館を改装し、観光客、ビジネス客、地元客が立ち寄れる通り沿いの店。そこでは京都のコーヒーだけでなく、現地焙煎のThai coffeeも出している。
京都側の芯も消えていない。Nishijin Roasteryは、2021年8月にFushimi Inariから西陣へ移った生産拠点として紹介され、世界のパートナーから届くコーヒーをLoring 35kgで焙煎する場所になっている。京都のロースタリー、海外店、現地の豆やチームが、一本の中央集権ではなく、複数の接点としてつながる。
JakartaのKissatenは、コピーしないための名前だった
Kurasuの違いがいちばん見えやすいのはJakartaだ。
2023年、KurasuはJakartaで2店を開いた。公式Journalでは、Indonesiaを選んだ理由として、オンラインストアで同国が上位の海外市場だったこと、京都のEbisugawa店にIndonesiaからの来客が多かったこと、コーヒー関連商品の輸入関税が高く、海外から豆や器具を買いにくいことが挙げられる。Indonesiaが大きなコーヒー生産国であり、arabicaの品質や消費者の嗜好が変わっている、という市場の見方も添えられている。
1店目のKurasu Senopatiは、Jakarta中心部の高級アパレルストア2階に置かれた。大きく賭ける前の小さなテストだったが、初日から行列ができた。空間は京都店を参照しながら、Jakartaの建築や嗜好に合わせて調整され、banana-fiber washiの照明にはIndonesiaの素材と日本の和紙技法が重なる。
混雑を受けて近くに開いた2店目が、Kurasu “Kissaten”だ。名前は創業者の母が京都で営んでいたjazz kissatenに由来する。ただし、懐かしい日本風をそのまま再現する店ではない。朝は穏やかに、夜はDJ、コミュニティイベント、アクティベーション、外でのBBQまで受け入れる。日本の喫茶店の記憶を持ちながら、Jakartaの集まり方に店を開いている。
ここでKurasuが海外へ渡しているのは、完成済みの京都ではない。京都を参照する権利と、現地で変える余白だ。
2つの海外進出は、同じ問いに答えていない
% ArabicaとKurasuは、「日本発ブランドの海外進出」という同じ棚に置ける。だが、運営者が先に解いている問いは違う。
% Arabicaは、世界の複数都市で同じブランドの視界に入れる状態を作る。Philosophyにあるコーヒー、デザイン、旅の感覚は、Locationsの広い店舗網とつながっている。店ごとの物語よりも、どの都市でも見つけられる記号の強さが前に出る。
Kurasuは、京都の固定点を持ったまま、現地チームや都市ごとの店作りへ判断を渡す。Singaporeではlocalization、BangkokではThai coffee、JakartaではKissatenの再解釈が見える。店は同じ看板の反復というより、京都と街のあいだに置かれる調整点になる。
海外へ出る店にとって、問題は「日本らしさを出すか、消すか」だけではない。むしろ先に問うべきなのは、世界観をどこまで標準化し、どこから先を現地のチーム、素材、時間帯、客の集まり方に渡すのか、という設計だ。
店名、豆、焙煎、器具、内装、接客、イベント、夜の使われ方。そのうち、海外店でも本部が握るべきものは何か。反対に、現地へ渡さない限り立ち上がらないものは何か。
海外進出の最初の判断は、出店する都市名ではなく、渡しても崩れないものと、渡さなければ始まらないものを分けることかもしれない。
