営業時間を1時間足す判断は、売上を増やす判断であると同時に、費用とオペレーションを増やす判断でもある。朝は、動線と商品を絞れれば短い利用を積み重ねやすい。夜は、客単価や滞在価値を上げられる一方で、人件費、在庫、酒類やフード、空間の切り替えが増える。
見るべき数字は、その1時間を足したあとに残る粗利だ。
1時間を足す前に、粗利の残り方を見る
カフェの売上は、客数と客単価で決まる。開業支援の文脈では、席数、回転数、客単価を分ける式もよく使われる。営業時間を足す判断でも、この分解が出発点になる。
ただし、売上だけでは判断できない。日本政策金融公庫の小企業向け経営指標では、喫茶店の売上高総利益率は平均69.2%。一方で、人件費対売上高比率は平均39.0%、諸経費対売上高比率は平均39.4%、損益分岐点比率は平均120.8%に達する [1]。追加の売上が、人件費と諸経費を超えて残らなければ、営業時間を広げても利益は薄くなる。
日本フードサービス協会の2025年年間結果では、喫茶業態の売上高は前年比109.8%、客数は101.1%、客単価は108.6%だった [2]。売上増の多くが客単価側に寄る局面では、時間を伸ばすだけで客数が増えるとは置けない。時間帯ごとに、客数、客単価、スタッフ配置、仕込み、片付け、在庫、光熱費を並べる必要がある。

朝を足す店は、先に動線を持っている
朝営業は、需要の有無よりも、店の前を誰がどの速さで通るかで決まる。
リクルート/ホットペッパーグルメ外食総研の「朝外食」調査では、平日の仕事がある日に朝食を外食で食べる人は全体の15.0%。性年代別では男性20代39.7%、男性30代21.1%、女性20代20.0%と、若い層に寄る。平日朝の予算は500円〜800円未満が中心だ [3]。朝を足すなら、高い滞在価値よりも、短い導線、速い提供、反復しやすい価格が先に来る。
地域差もある。十六総合研究所の喫茶店・カフェ利用調査では、主な利用目的を「モーニングサービス」とした割合が岐阜県12.4%、愛知県13.7%、全国5.5%だった [4]。モーニング文化が強い地域では、朝の1杯に食事や習慣が重なる。店は、その地域の朝の使われ方に合わせて商品を組む。
Kurasu Kyotoは、京都駅から徒歩圏の店舗を8am–6pmで開けている [5]。観光や移動の導線にある店では、朝の1杯が移動の途中に受け取れる商品になる。朝を足す店に必要なのは、短い滞在で成立する商品数、提供速度、片付けの軽さだ。
日本の大手喫茶チェーンにも、朝を定型化する例がある。コメダ珈琲店のモーニングは、開店から11時まで、ドリンク注文にパンやゆで玉子などを組み合わせる [6]。朝の粗利は、長いメニューで作るより、注文の型を固定してオペレーションを軽くする方が残しやすい。
夜を足す店は、途中で店を切り替える
夜は、同じ設備を長く使える時間である一方、店の中身を変える時間でもある。客単価を上げるほど、コーヒー以外の商品、軽食、デザート、酒類、照明、音楽、席の使い方、接客の温度が変わる。
この切り替えには費用が乗る。昼のオペレーションを引き延ばすだけでは済まない。メニュー、人員、空間、在庫を途中で組み替える。仕込みと廃棄の管理も変わる。スタッフには、昼の回転とは違う滞在型の接客が求められる。
FUGLEN COFFEE ROASTERS TOKYOは、2012年に海外進出第一号店としてFUGLEN TOKYOを開き、2014年に東京・渋谷で焙煎を始めた [7]。スペシャルティコーヒーの店は、焙煎、カルチャー、滞在、学びの接点を重ねながら時間の使われ方を作る。夜にイベント、バー、テイスティング、食後の1杯を組み込むなら、その重なりを商品と人員で支える必要がある。
22時以降は労務コストも変わる。午後10時から午前5時までの労働には、通常賃金の2割5分以上の割増賃金が必要になる [8]。酒と滞在を柱にする場合は、営業形態の点検も加わる。東京都では、深夜における酒類提供飲食店営業の届出が制度として用意されている [9]。夜の1時間は、客単価だけでなく、割増賃金、在庫、手続き、片付けまで含めて粗利を見る。
昼から午後が強い店は、夜より先に夕方を見る
朝と夜を足す前に、店の中心時間を確認したい。
MyVoiceのコーヒーチェーン店調査では、利用時間帯として「昼(11時〜13時台)」が31.8%、「午後(14時〜16時台)」が62.1%だった [10]。単純に並べると、11時〜16時台に利用が大きく寄っている。営業時間を広げる前に見る順番は、すでに強い昼〜午後の前後にどの谷があるかだ。
午後が強い店にとって、朝や夜は「新しい需要を取りに行く時間」になる。既存ピークに隣接する夕方が落ちているなら、いきなり夜営業へ踏み込むより、夕方の軽食、テイクアウト、豆販売、作業需要、イベント前の短い利用を試す方が粗利を残しやすい場合がある。
J-Net21の喫茶店調査では、1回の利用費用は1,000円未満が69.6%、1,000円〜2,000円未満が24.9%だった [11]。高単価メニューだけで夜を作ると、既存客の価格帯から外れる可能性がある。営業時間を動かす前に、昼〜午後の客が夕方にもう1品買えるのか、夜に別の商品を買うのかを分けて見る。
7時に開けるか、22時まで開けるか
営業時間を増やす前に、時間帯を4つに分けたい。朝、昼、午後、夜。それぞれについて、売上、客数、客単価、スタッフ配置、仕込み、廃棄、片付けを並べる。POSでも、ランチタイムやディナータイムなどの時間帯を設定し、時間帯ごとの売上を見る考え方が使われている [12]。
朝を足す店は、通勤・通学、観光、住宅地の生活リズムなどの導線を持ち、低〜中価格帯の定型メニューを少人数で回せる必要がある。
夜を足す店は、客単価を上げる商品と滞在価値を持ち、昼から夜へメニュー、人員、空間、在庫を切り替えられる必要がある。22時以降に踏み込むなら、深夜割増や営業形態も最初から計算に入れる。
夕方を埋める店は、昼〜午後の既存客に近い商品から試せる。夜営業ほど店を変えず、朝営業ほど新しい導線を必要としない。朝、夕方、夜のどこに足すかで、必要な商品と費用が変わる。
追加の1時間が、売上より先に人件費と在庫を増やすなら、その時間は利益を薄くする。逆に、既存の動線やピークに沿って少ない切り替えで売上を積めるなら、短い1時間でも店を強くできる。
営業時間を決める最初の問いは、その1時間が店を軽くするのか、重くするのか。ここから見たい。
